人を、想う書

 

 自らの成した仕事に満足できることは、とても幸せなことだと思います。満足できるほどの仕事をなすまでが大変であることは言うまでもありませんが。

 さらにその仕事が、私の場合は私の「書」が人を幸せにできたのなら、これ以上の幸せはありません。

 そんな作品を作りたいと思っています。また、そんな作品を作って人を幸せにしたいと願う書家でありたい。

 

 贈り物は、その種類としてお菓子や雑貨、絵画、書など、いくつもあります。

ではどんなシチュエーションが人に「書を贈ろう」と思わせるのでしょうか。

「大好きな友人、家族の記念日」や、「進学や就職、結婚、新築などのお祝い」に書を贈ることもあるでしょう。

 一方で困難に直面している家族や友人を元気づけ、励ますために書を贈ることもあるでしょう。

 

 と、ここでふと思い当たることがいくつか過去にありました。もしかしたら困難の度合いが深いほど、人は文字の力を頼むのではないでしょうか。さすればお祝いの贈り物としての書も、そこまでの道のりが決して容易ではなかったからこそ、人は書に、その想いを託して贈りたいとおもったのではないか、と。

 

 作品を作ることは並大抵のことではありません。そもそもお手本など無いわけですし、制作過程で書体や構成、サイズを見直し、筆を替え、紙を替え、墨を替え、千枚を超えてなお満足しないこともあるほどです。そのような苦労の末に出来上がった作品だからこそでしょう、きっと。選ばれるべき時と、場合があるのは。

 

私の書が、人を幸せにする。

私の書は、人を幸せにできる。

その幸せをかみしめ、私は今日も作品を作り続けます。

人の、静かだが強い、そんな「想い」に応える書家であることこそ、私の使命だと信じ。

 

石田不空